小学校学習指導要領音楽編への意見具申

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山本弘

【個】を育てる“愚作の多作”


 従来の音楽教育は、全体の表現美が全てであった。これは義務教育としては間違いで、【個】を育てることが本務であるはずである。
 その意味で、【個】の記録は尊い。
 この学校は、あたかも図画教育で童画を扱うように、「愚作の多作」でひとりひとりの能力の育成を気長に待つ姿勢を貫き、音楽教育の姿勢を変えたのであった。
 それにはこの教師集団が、音楽専門の人がいなかったから可能だったと思っている。
 従来の音楽観からでは、この愚作の童曲(童画の意味)はつまらなくて、すぐ教え込んでその芽を摘んでしまったであろうに…。
 この学校の先生方は、じっと見守って育ててくれた。
 この意味で、新旧音楽教育の差が現れた話を紹介しよう。

 当時、NHKのある番組で、子どもの作曲を紹介するからと、古川小学校へ2名の子に出張依頼があった。だが、学校側は相談の上、「教育上の願いで、愚作の多作を続けていて、作品の価値は問題にしていないから」との理由で一応お断りをしたら、再度、作品を送るよう要請があった。
 そこで学校は50曲位、授業中にできた曲を送ったら、そのうち2曲、郷土色豊かな2曲が選ばれ、その作曲者2名の子が出演することになった。
 放送当日、学校側が心配したのは、他校ではピアノ塾通いの子や、特別の子の作品を並べるだろうが、教育目的を異にする当校の一般作品が同列に放送されるとテレビを見ている父兄がどう感ずるだろうということだったが、幸い良い曲で遜色はなく、その点心配はなくほっとしていた。
 次々に演奏発表される子どもたちの作曲を聞きおわると、アナウンサーが、
 「いい曲ですね。この曲は作り始めてから何曲目ですか」
と訊いていたが、他の子はその都度、1曲目とか、初めてとか、多くて2曲だったと思う。
 いよいよ古川小学校の子の発表が終わり、何曲目ですかの質問に、
 「はっ?」
と不思議そうな顔をしていた。
 アナウンサーは質問が分からなかったのかと思ってまた「何曲目か」と聞き返したら、その子は上を向いて
 「エーッ」
と考えていた。
 アナウンサーは困ってまた「何曲目か」と訊いたら、その子はウッと呻いてポツリと答えた。
 「数えれんくらい」
 古小の二人目の子もそうだった。
 その意味が前述のノートで分かると思う。
 1年から何曲作ったろうか。教育とは本来そういうものなのだ。
 図画で「今描いている絵は何枚目」と訊くだろうか。

 その時の児童作品が古川小学校の研究誌の中にあったのでそのまま紹介する。




 アナウンサーが「この曲は何曲目ですか」と聞いた。どこの子も「はい、2曲目です」「始めてです」など答えていた。古小の子は同じ問いに、「えっ…数え切れません」にアナウンサーも唖然、無理もない、毎時間作っているんだから。




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